NMB48のレッツ・スタディー!演劇編 佐月愛果さん①
長かったコロナ禍を経て、ライブ・エンターテインメント界が再び活況を呈している。特に、大きな苦境に立った演劇やミュージカルなどの舞台芸術は「復活」ぶりがめざましい。でも、ビギナーは舞台をどう楽しむといいのだろうか。これから舞台芸術に触れようと思っている人たちに向け、舞台歴15年以上というNMB48・佐月愛果さん(22)がナビゲートする。(構成・阪本輝昭)
記事の後半で、佐月愛果さんのサイン色紙が抽選であたる企画の案内があります。ふるってご応募ください。
歌って演じて15年以上 「舞台を楽しむひけつ」お伝えします!

さつき・あいか NMB48「チームN」メンバー。2021年3~7月、朝日新聞「NMB48のレッツ・スタディー!」小論文編を担当。同年6月に開かれた同連載のオンラインイベントに、河合塾で小論文指導を担当する加賀健司講師らとともに出演。将来の夢は、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でコゼット役を演じることなど。
アイドルをするかたわら、ミュージカルや演劇の舞台にもときどき立たせてもらっています。アイドル業と役者業。歌って踊るという部分では共通するところもありつつ、少し違うところもある仕事です。この「演劇編」では、舞台を、役者としても観客の立場からも愛してやまない私なりの視点で、「舞台を楽しむひけつ」をご紹介できればと思います。
もともと小学生の頃から劇団に所属し、子役として舞台に立っていました。宝塚歌劇が大好きな母の影響で宝塚の舞台を見たことをきっかけに「お客さんとして舞台を見る」楽しさにも開眼し、今でも休みや時間ができるたびに足を運んでいます。

コロナ禍の数年間、「舞台を見る楽しみ」は大きく制約されました。その間の心細さ、寄る辺のない感じ、心にぽっかりあいた空白。私にとって舞台を見ることは単なる趣味ではなく、「生きること」の一部だったんだと改めて気付きました。
同時に、舞台に立つ人間として、またアイドルとして、自らの責任の重さも感じました。ファンの人たちの「生きること」の一部を担う私たちは、ファンの信頼と期待を裏切らず、会えない間も「心の推し」としてきちんとあらねばならない、と。
「舞台鑑賞はいいよ」と、私は周りにもよくすすめています。ところが「初心者にはハードルが少し高い」「楽しみ方がよくわからない」という声も聞きます。最初の一歩は、どうしたらよいでしょう。
大きな劇場か? 小さな劇場か? それが問題だ

「演劇を見たいけど、どう作品を選べばいいのかわからない」という方には、私は「大きな劇場で見るか、小さな劇場で見るか」からまず考えてみてはどうでしょうか、とおすすめしたいです。
大きな劇場は、舞台を広く使えるメリットがあります。セットも大仕掛けで、俳優それぞれの位置関係もわかりやすく、観客にとってはその場で演じられていること、起きていることが視覚的に理解しやすいです。舞台上で精密に作り上げられた世界観を味わい、非日常の空間や雰囲気を満喫したいという方に向いているかも知れません。
小劇場は、舞台との距離の近さ、一体感、臨場感を楽しみたい人におすすめです。セットや小道具は最小限。そのぶん、観客は場面ごとの情景を想像力で補完します。物語に入り込み、登場人物にどっぷり感情移入し、目前で繰り広げられているドラマがまるで現実世界のように感じられることもあります。
私はその両方を出演者としても経験していますが、それぞれに良さがあり、どちらかは選べません。舞台を見ることは人生を豊かにする「体験」です。まずはどんな種類の体験を得たいか、で最初は劇場の規模から選んでみるといいかも知れません。
照明下、広い舞台にひとり立って…
大きな舞台での経験でいうと、今も忘れられないのが舞台芸術を専攻していた高校3年のとき、学校の発表会で梅田芸術劇場(大阪・梅田)の舞台に立ったときのことです。振り付け、構成、脚本、配役を生徒たちが中心になって決める慣習でした。私は歌唱を担うメンバーに選ばれ、Little Glee Monsterさんの「足跡」という曲の一節を歌いました。
その場面で、広い舞台にいたのは私一人でした。
たった一人でライトを浴び、大観衆の目と耳が私一人に集まっている感覚。電撃が走るような感動。永遠に忘れられない、高校3年間の集大成でした。
一方、小劇場で演じることには別の喜びがあります。昨年、「ナビゲーション」という舞台の主演を大阪と東京の小劇場でつとめさせてもらいました。

私が演じたのは建設現場で働く「横山凪紗(なぎさ)」という女の子です。ある行きがかりから重大な任務を帯び、車を運転して山形まで旅するはめになります。途中で不思議な女性と出会って車に乗せざるを得なくなり、2人で北をめざす途上で様々な出来事や人と遭遇します。はちゃめちゃなロードムービー風の舞台ですが、終盤で、家族愛という本当のテーマが浮かび上がり、涙を誘う物語になっています。
客席と舞台が近いので、息をのむ雰囲気やすすり泣く声も聞こえ、客席の微妙な空気の変化にも気付きます。それを感じ取って、ちょっとしたアドリブを入れてみるのも楽しい経験でした。
同じ舞台は二度とない 「生き物」ゆえの難しさと楽しさ

どちらにも共通しているのは、舞台とはやり直しのきかない一発勝負であるということ。そして、常に変化し続ける生き物であるということです。役者のストーリー理解やセリフ解釈も回を重ねるごとに深化・変化していく部分があるし、その日の客席の空気や反応にも影響されます。ちょっとのミスがきっかけで全てが台無しになることもある。同じ演目でも一つとして同じ舞台はないというのが演劇やミュージカルの面白さであり、スリルでもあります。
舞台を演じる楽しさは、自分以外の誰かの役になりきり、何通りもの人生を経験できることです。役に入り込み、身も心もその配役になる。その間は佐月愛果ではなく、別の誰かの人生を生きています。
一方、アイドル活動をしているときの私は常に佐月愛果としての人格で勝負しています。それぞれに楽しさとやりがいがあり、求められるものも同じではありません。冒頭で、役者とアイドルは似ているようで少し違うと述べた理由でもあります。
同時に、その楽しさは舞台を見るときの面白さでもあると思います。お客さまもいつの間にか舞台上にいて、まるで登場人物の一人になったかのような気持ちで見ることができる。演劇を見ている間、お客さまも別の人生を生きている。それは、生身の人間たちが3次元の世界でつくり上げる舞台という芸術ならではの体験だと思います。
想像力が旺盛であるほど楽しめるというのも、役者と観客双方にあてはまる事柄かも知れません。私は舞台を演じるとき、台本を何度も読み込み、そこに書かれていないストーリーや前後の情景、セリフの行間に想像をめぐらせ、自分なりの物語解釈を広げたうえで臨みます。
アイドルとして歌を歌うときも同じ。歌詞を徹底的に解釈し、一つのストーリーを完成させたうえで公演に出ます。子役からアイドルになった私だからこそ、ステージでの表現力では負けたくないので。
観客席での解釈と想像 そのすべてが「正解」
客席でも同じことがいえます。「この場面はどんな意味をもつのか?」「このセリフは本心なのか?」「なぜここでこの人物が出てくる?」と、役者の表現や表情をヒントにして想像を働かせながら鑑賞すると、楽しさ2倍です。舞台の中で「正解」が示されて答え合わせができる場合ばかりとは限りません。その場合は、お客さま一人ひとりが頭の中で解釈したり想像したりしたことがそれぞれ全部正解ということになります。楽しいですよね、これ。
物語の筋立てや登場人物の属性などをあえて予習せずに真っさらな状態で楽しむ派の人と、予習してから見る派の人がいると思います。私自身は物語のあらすじや流れを頭に入れてから鑑賞する派です。
舞台の隅々まで観察し、想像を働かせながら見ていると展開に追いつけなくなるときがあるし、登場人物どうしの関係が複雑に入り組んでいるような物語では予習ゼロだと厳しいときがあるからです。とはいえ、そこは作品にもよりますし、好みにもよりますので、あくまでご参考までに、ということで。
次回以降の「演劇編」は、朝日新聞デジタルで、私の好きな舞台作品を個別に取り上げながら、その作品の魅力やおすすめポイントをお伝えしていければと思います。ぜひ、ご愛読ください!
佐月愛果さんのプロフィル

さつき・あいか NMB48「チームN」メンバー。2021年3~7月、朝日新聞「NMB48のレッツ・スタディー!」小論文編を担当。同年6月に開かれた同連載のオンラインイベントに、河合塾で小論文指導を担当する加賀健司講師らとともに出演。将来の夢は、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でコゼット役を演じることなど。
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